3回にわたる「不登校」という現象をめぐって、私自身の体験や思いをもとに、子どもとの関わり方や社会のまなざしについて考えていきたいシリーズです。
第3回最終の今回は、現在の枠の中でもできる具体的な対策と提案について考えてみます。
はじめに——「個の尊重」とはどういうことか?
不登校には、人間関係の悩み、発達特性、家庭環境、教師との相性、心身の不調など、実にさまざまな背景があります。
そのいずれも、単純なひとことで語れるようなものではありません。
けれど、その根底に共通してあるのは、「その子のままで受け入れられていない」という感覚ではないでしょうか。
「個の尊重」とは、その子自身のあり方を認め、その子のやり方で世界と関わることを許すこと——それが、いま求められている視点だと感じています。
■親ができること:1 言葉ではなく、“伝え方”を一緒に探す
息子は幼いころから、気持ちを言葉にすることが苦手な子供でした。
でも、トラブルを起こすことも多かったので、私は「話すこと」にこだわるのではなく、「伝えられる方法」を一緒に探すことを意識するようになりました。
● 表現の形を変える
たとえば、お出かけや新しい体験のあとには、作文や絵日記を書いてもらいました。言葉でうまく説明できなくても、文字や絵でなら心の内を表現できることもあります。
● YES/NOで答えられる質問にする
「今日は体がしんどかった?」「嫌なことがあった?」など、選択肢のある聞き方に変えるだけで、反応しやすくなります。
● “手をギュッと握る”というやりとり
どうしても話せない時期には、私が気持ちをいくつか想像して口に出し、「当てはまるものがあったら、手をギュッとして」と伝えていました。
こうした工夫を通して実感したのは、「個の尊重」とは、“語らせる”ことではなく、“伝える方法”を一緒に見つけること。
無理に言葉を引き出すより、その子らしい手段を信じることで、気持ちは少しずつ外に向かって動き出します。
■親ができること:2 “ちょうどいい距離感”を育てる
不登校になっていた頃、私は息子を職場に連れて行き、ほとんどの時間を共に過ごしていました。「何かあればすぐに対応したい」「一人にするのが不安」という気持ちからでした。
でも、やがて気づきました。
“ずっと一緒にいる”ことが正解とは限らない。
子どもは、「一人では無理」ではなく、「困ったときに助けてもらえるから、自分でやってみる」という感覚を持つことで、自信と自立の一歩を踏み出せるのだと思います。
私はある日、息子に伝えました。
「学校に行く・行かないは正直どうでもいい。でも、外に出られなくなるのは心配。
家→ネットやゲーム→お風呂に入らない→外が怖くなる、という流れになるのがこわいんだよ。
外に出る時間と、どんな形でも“学び続ける姿勢”は持っていてほしい。
そして、学校生活よりも、社会の中のほうが君にはきっと合ってる。」
この言葉に、少し安心したような表情を見せてくれたのが印象に残っています。
■親ができること:3 体を動かすことで、「考える前に整える」
気持ちが落ち込んでしまうと、頭で考えることすらしんどくなることがあります。そんなときは、体を先に動かしてみるのが有効でした。
● トランポリンに行く
朝早起きして、少し遠くの施設に出かけたことがあります。最初は不安げだった息子も、跳ねるうちに少しずつ顔がほぐれていき、帰り道には「また行こう」と言ってくれました。
● 朝の散歩
継続は難しかったですが、朝の空気を吸いながら並んで歩くだけでも、心が少し前を向けるようでした。
● 自然と触れ合う時間
翡翠探し、デイキャンプ、虫探し…。自然と体を動かす時間は、言葉や成果を求められない“自由な時間”でもありました。
こうした体験の中で意識していたキーワードは、
「一緒にいる」「自然や生き物に触れる」「絶対に大丈夫と信じる」。
大人にも子どもにも、「考えない時間」が必要なんだと思います。
■学校にできること:二択ではなく、“間”を増やす
学校現場では、「来る/来ない」という二択で不登校を捉えてしまうケースが多く見られます。でも、本来はその間に、もっと柔軟な選択肢があるはずです。
たとえば:
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オンライン授業の活用
→ 再登校の準備として、本人の希望で接続できるように。 -
教材のデジタル共有や郵送
→ 息子のときは授業で使用した大量のプリントの束がまとめて渡されましたが、学びやすさの配慮が必要です。 -
教室外での1対1の面談
→ 安心できる環境なら、本人の気持ちも出やすくなります。 -
授業や課題の“つながり”を説明してもらう
→ 息子は久しぶりに登校しても、どこから手をつけてよいか分からず戸惑っていました。授業の連続性を補足してもらえると、戻るハードルが下がります。
そして先生方に、ぜひ知っておいてほしいことがあります。
不登校の子どもは、「弱い子」でも、「勉強が嫌いな子」でもありません。
行事の誘いもたくさんいただきましたが、息子はそもそも集団行動が得意ではなかったため、むしろそれが負担になることもありました。
形式に当てはめようとするのではなく、その子のペースに合わせて「学びを届ける」工夫こそが、“個の尊重”だと思います。
■ 社会にできること:制度のほうが、子どもに寄り添う設計に
家庭や学校だけでは抱えきれないケースも少なくありません。だからこそ、**制度や地域が持つ“柔らかさ”と“多様さ”**が重要になってきます。
たとえば:
息子は実際に、私の職場で雑用を手伝ったり、コロナウイルスについて自主的に調べてまとめたりしていました。
そうした学びや実践が、学校の出席や単位と同等の価値として認められる社会になってほしいと願っています。
“個の尊重”とは、子どもを制度に合わせさせるのではなく、制度のほうが子どもに寄り添うこと。
最後に——「ここだけがすべてじゃないよ」と伝え続けたい
学校は、子どもにとってとても狭い世界です。そこに馴染めなければ、「自分はダメなんだ」と思い込んでしまうこともあるでしょう。
でも、実際には——
学ぶ場所も、生きる道も、無限にあります。
私たち大人にできるのは、その子のペースに寄り添いながら、
「ここだけがすべてじゃないよ」
「大丈夫、自分の道を見つけていいんだよ」
と、何度でも伝えていくことではないでしょうか。
「個の尊重」とは、子どもが自分の地図で歩くことを、許し、支えること。
その一歩を、社会全体で後押しできるような世の中を、これからも願い続けています。