「それ、まだ習ってないでしょ」。
学校でそう言われ、息子は黙り込みました。
ただ、学びたいという気持ちを言葉にしただけなのに。
これは、わたしの子どもが学校で体験した、“学ぶ意欲”が否定された瞬間の話です。
◆名前を漢字で書いたら、怒られた
息子がまだ小学1年生だったある日、学校で自分の名前を漢字で書いて先生に叱られました。
「まだ習ってない漢字を勝手に使ってはいけません」
「形や書き順を間違って覚えたら困るから」
──とのこと。
親としては、「えっ……それ、叱ること?」と正直、戸惑いました。
だって、息子はただ「自分の名前をちゃんと漢字で書いてみたかった」だけなんです。
年長さんのときから、親が書く名前を見て、少しずつ覚えていたのです。
だから、「じゃあ一緒に書いてみようか」と、家でこっそり練習もしていたんです。
ようやく自分で書けるようになったときの、あの誇らしげな顔。
それを“間違ってるからダメ”で打ち消してしまうって、なんだかもったいない。
さらに気になるのは、「お家でお父さんに教えてもらった」と言い、それはだめだといわれることで、子ども自身が“親を否定される”ように感じてしまうことです。
「それはまだやっちゃダメ」「それは間違ってる」と言われれば、子どもは「教えてくれた親が間違ってたのかな」と心を曇らせます。子どもにとって親は、安心と信頼の象徴。その親を否定されるように感じるのは、何よりもつらいのです。
◆学びたい気持ちにブレーキをかける理由
もちろん、教える立場としては「正しい書き順」や「学年ごとの進度」は大事でしょう。でも、それが優先されすぎると、「やってみたい」「書いてみたい」という子どもの内発的な学びのタイミングを逃してしまうのではないでしょうか。
大人だって、興味をもったときに「今じゃない」「順番が違う」なんて言われたら、ちょっと意欲をそがれますよね。
◆家庭で選んだ、“やりたい”を育てる場
この経験から、私たち親は考えました。
子どもが「やりたい」「書きたい」「知りたい」と思ったタイミングを大切にしてあげたい。
そう思い、小学校の進度に合わせるだけでなく、本人の関心を尊重できる個別指導の塾を選択しました。
そこで息子は、自分のペースで「学びたい」を育んでいきました。
学校では“まだ早い”とされた漢字も、塾では「書けるようになったね!」とほめてもらえる。
たったそれだけの違いが、子どもの学ぶ意欲をどれだけ後押しするかを実感したのです。
◆おわりに──「準備が整うのを待つ」教育でいいのか?
もちろん、義務教育には基準や体系が必要です。
でも、子どもの心は、教科書どおりに育つわけではありません。
「やってみたい」と思ったときが、最大の学びのチャンス。
その瞬間を「まだ習ってない」で潰すのではなく、「いいね、やってみよう」と背中を押せる教育のあり方を、私たち大人はもっと模索できるのではないでしょうか。